今回は久しぶりの「老後資金」についてです。
わが日本人はほうっておいても余裕があれば定期預金などへの貯蓄に励む勤勉さが国民性と言えると思いますが、ではそうした預金の目的とは何でしょうか?
もちろんそれは正解があるようなものではなく人それぞれでよいのですが、どんな調査・アンケートを見ても、最も多いのは「将来のため」というあいまいなものですね。
歴史を振り返ってみれば、日本で概ね「飢え」がなくなったのはここ百年、二百年のことで、それまでは常に飢餓との戦いだったわけですから、将来の不安に対する備えというのはもう我々のDNAレベルまでしみついた習性だと思いますが、とは言いつつ闇雲に預金を続けていくのはあまり健康的なこととはいえません。
お金というのは「あって困る」というものではないにしても、最終的には使うためにあるわけで、いくらためるべきなのか目標値がハッキリすれば、大いに貯めて、大いに使うことができますね。
では預金の最大の目標が将来=老後資金だとして、一体、老後の資金はいくら必要なのでしょうか?
最近はあまり聞かなくなったような気もしますが、よく聞いたフレーズが「1億円」というものですね。調査にもとづく「老後に余裕が持てる平均的な生活費」を30年分くらい計算するとこうした金額になったと思います。
ただもちろん、そんな大金は必要ありませんし、そもそも現実的でもありません。
実際にはそこから年金等の「老後の収入」を差し引いて、「3,000万円前後」というのが多くの結論だったと記憶しています。
3,000万円であれば、「1億円」に比べればはるかに現実的ですし、特に20代や30代などのこれから資産を形成していく「資産形成層」の方々に目標としてもらう金額としては悪くないと思います。
とは言え実際に3,000万円の現預金を用意して老後を迎えるご家庭などかなりの少数派ですから、現実はもちろんもう少し庶民的ですね。
上記コラムでは平成24年度の総務省による家計調査年報にもとづき「65歳の夫婦2人暮らしで、85歳までの必要貯蓄額」を以下の通り計算しています。
・支出 : 24万円×12ヶ月×20年=5,760万円
・収入 : 20万円×12ヶ月×20年=4,800万円
つまり、差し引き960万円の支出超過=預金があればよい、ということですね。
60代以上の世帯の平均金融資産は1,000万円を大きく超えていますので、ここまでくればかなり現実的なライン、ということになります。
さてこの数値は平成24年度の家計調査報告をベースにしているわけですが、数日前に平成25年度の家計調査報告が公表されていますので、そちらの数字をチェックしてみたいと思います。
母集団は「高齢無職世帯(世帯主が60歳以上の無職世帯)」ということですが、具体的な平均値はこのようになっています。
・支出 : 234,504円/月
・収入 : 180,808円/月
つまり毎月、53,696円のショート、ということですね。この時点でちょっと雲行きが怪しくなっているわけですが、この20年分を計算するとこうなります。
・差額(20年) : 53,696円×12ヶ月×20年=1,288万円
ということで、現時点では老後のために1,288万円の預金が必要と考えられるわけですね。
残念ながら「960万円」よりは増加してしまいましたが、それでもまだ「3,000万円」や「1億円」よりも現実的と言えます。老後資金の目安にしていただければと思います。
ただし、こうした試算の落とし穴は何かと言うと、「収入の方は固定的ではあるけれど、支出の方は極めて変動的なものである」という点です。
どういうことかと言うと、「月23万4千円の生活をするために預金した」とか「必ず月23万4千円必要」といった筋合いのものではなく、むしろ「月23万4千円の支出ができるくらいの預金がある」とか「預金と収入からすれば月23万4千円の支出に抑えないといけない」といった筋合いのものです。
つまり「月23万4千円」に至る因果関係が全く逆ということですね。
言い換えれば、収入=年金額や預金がもっと少なければ少ないなりの生活を送ればいいわけですし、逆に収入や預金がもっと多ければ、その分だけ支出を増やすことができるものと思います。
極論を言えば老後生活に「絶対必要な額」などなく、焦らず・慌てず、自然体で貯めていけばいいと言えなくもないですが、ただまぁ、それではあまりに張り合いがありませんし、易きに流れるのが人情というものです。
記者も全く他人事ではありませんが、やはり志は高く、まずは「1,288万円」、そしてさらには「3,000万円」を目指してがんばっていただければと思います。
もちろんその分だけ老後の生活に余裕とゆとりが出るわけですからね。無理のない範囲で目標金額を意識しながら預金に励むのは、悪くない「先行投資」と言えるのではないでしょうか。
参考になさってください。
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